予想外のブレークスルー
そしていよいよ、最後の商談の日取りが決まりました。
この商談で仕事を取れなければ会社が潰れ、
家族も社員も路頭に迷うという意味での最後です。
私はこの商談をものにするために、ありとあらゆる知恵を絞り、
準備を進めました。
相手の動作を鏡のように真似する”ミラーリング”というテクニックを使うと、
相手の信頼感を得やすいということを本で読んだので、
それをマスターするための練習を、10年来の友人に付き合ってもらいました。
近所のファミレスにて、友人をお客さんに見立て、
台本を見ながらセールスとクロージングの練習をしたのです。
私はいつもの愛用のスーツを着用し、本番と同様に気合を入れて望み、
次々と覚えたてのテクニックを使ってまくしたてました。
練習は順調に進み「これなら次は行けそうだな・・・」と思い始めた矢先、
友人がふと、こう言ったのです。
「利典さあ、そんな小手先のテクニックを練習するのもいいけど、その前にちゃんとしたスーツを買うべきなんじゃないの?お前の為を思って言うけど、俺が客だったら、そんなダサいスーツ着た奴に仕事を任せたくないよ。」
そう聞いた瞬間、私は頭をハンマーで
殴られたような衝撃を受けました。
「実際にサービスの説明を聞くと、すごくいいと思えるけど、ドアを開けて今のお前が入ってきたら”あー、こいつは仕事できそうにないな・・・”と誰だって感じると思うよ。」
そう友人に言われ、初めて私は目が醒めました。
今まで私の足を引っ張っていたのは、
ダサい外見だった
ということです。
しかし、衝撃を受けたものの、その「ダサい」という問題をどうやって解決していいのかがわかりませんでした。
すると友人が「スーツの選び方、教えてやるから、ついて来いよ。」と言い、
店を出ました。
そのまま二人で近くのスーツ量販店に向かったのです。
私「ちょっと待てよ、ここは俺がスーツを買った店じゃないか。いま着てるスーツだってここで買ったやつだよ。ここにあるのなんかみんな一緒なんだから、それぐらいで変わるわけないじゃないか。いいから商談の練習に付き合ってくれよ。」
友人「まあまあ落ち着けって。同じ店で売ってるスーツでも、ちゃんとポイントを押さえて選べば全然印象が違うんだよ。例えばほら・・・」
そういって友人にされるがまま、何着もスーツの試着をさせられました。
まるで着せ替え人形のように、5着、10着と着替えさせられている中、友人はずっと
「これはサイズ感が・・・こっちは生地が安っぽい・・・着丈と肩衣のバランスが・・・」
などとわけのわからないことをブツブツとつぶやいていました。
そして3時間かけてようやく一着にたどり着いたのです。